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Topics Volume 02

【主催者インタビュー】AG/SUM
日本経済新聞社 編集局 ゼネラルプロデューサー 山田 康昭氏

私たちの生活に欠かせない農業。今、農業はドローンやビッグデータ、AI、IoTといった先端技術と融合しアグリテックという形で革命的な進展を見せようとしています。日本橋で開催される日本最大のアグリテックイベントであるAG/SUM(アグサム)を主催する日本経済新聞社の山田康昭ゼネラルプロデューサーにAG/SUMの開催背景から次回の展望、日本橋という街の持つポテンシャルに至るまでお聞きしました。

〈開催背景について〉
“日本がハブになるようなスタートアップエコシステムを創りたい”

Q. 日本経済新聞がAG/SUMを開催した背景は?AG/SUMとはどのようなイベントか?
AG/SUMは、アグリテック、フードテック、バイオテックを三本柱に据えて新たなイベントとして2017年にはじまった、大規模なサミットイベントです。世界に打って出る日本発のスタートアップを輩出したい、という思いが根底にあり、カンファレンスやピッチだけでない複合的なイベントを続けてきました。

なぜ日本経済新聞がこのようなイベントを、と疑問に思われる方もいるかもしれません。実は2012年、当社の岡田社長が編集局長だった時代に、局内に立ち上げた編集企画センターという部署が母体となり編集局の記者が自らライブイベントを企画運営するという新しい試みが始まりました。

当初はセミナーイベントやシニア起業塾といった個人を対象にするものが多かったのですが、ある程度の成果が出たところで、新たな雇用を生み出し、世界市場にも進出できるような新しいビジネスを育てることに関心が移り、日本をハブにしたスタートアップエコシステムの創出と醸成を目指したSUMシリーズイベントが誕生したのです。

アグリテックという分野を選んだのは、農業改革にはテクノロジー導入が必要だと考える農林水産省からの相談がきっかけです。この分野のポテンシャルに惹かれ、「AG/SUM」と名付けて、2017年5月に初開催しました。今まで各方面に非常に好評で、2018年5月には第2回、2019年11月には第3回を開催するに至っており、2020年に第4回目を予定しています。

〈日本橋を選んだ理由について〉
“テクノロジーと食文化の両立がなされているアグリテックに最適な
場所、日本橋”

Q. AG/SUMを開催するにあたって日本橋、室町三井ホールという場所を選んだ理由は?
第1回は違う場所でスタートしたのですが、第2回からは食の歴史・文化が根付いている場所で開催したいと思いました。なぜならアグリテックを語るうえで、食文化は切り離せない。そこで、江戸の台所と呼ばれていた日本橋で開催したいと思ったんですね。さらにアグリテックには養殖、培養肉も含まれるので、センサリング技術、ドローン技術などのテック要素も重要です。日本橋には、古くから製薬会社が集まり、今はバイオテクノロジー企業の拠点が多くありますので、そういった意味でも日本橋という街を選択しました。

実は、米国カリフォルニアやオランダなどの、アグリテックの先進都市・国家は、テクノロジーと食文化の両方が根付いている傾向にあります。アグリテックのイベントの開催地として、日本橋には必然性があったのです。

また、使用できる会場設備も大きな要素のひとつでした。特に、コレド室町テラスの1階南側にある「大屋根広場」の存在は大きかった。あそこでマルシェを同時開催できることで、食、フードテックのイベントとしての説得力が高まります。また、メイン会場となった室町三井ホール&カンファレンスに関しても、シンポジウム会場、展示スペース、ワークショップ会場、ネットワーキング用のスピーカーズラウンジがコンパクトにまとまっており、使い勝手が良かった。実際、今回はシンポジウム会場の目の前に展示スペースを設置できたので、これまでのイベントと比べて、ふらっと立ち寄る人の数が明らかに増えました。

〈イベントプログラムについて〉
“キーマン同士のコミュニケーションを1つでも多く生み出すために”

Q. AG/SUMではどのようにプログラムを構成した?
日本の先端テクノロジーをいち早く海外市場に結び付けたいと考えるAG/SUMでは、今一番旬なテーマや人を世界からお呼びしたり、スタートアップに発信の場を用意したりしています。実際のプログラムでは、大テーマについて講演を行うシンポジウム、各テーマを深掘りするワークショップ、スタートアップのピッチコンテスト、そして先端テクノロジーを披露する展示が骨子です。

今回苦労したことの1つは、キャスティングです。と言うのも、農業の持続的発展を考えたとき、生産者をはじめとする農業特有の幅広いステークホルダーをコミュニティとして機能させる必要があると気づいたのですが、そういうコミュニティ視点で農業やアグリテックを語れる人を知りませんでした。幸い私は日本農業新聞を購読していたので、気になった人物に片っ端からご連絡し、講演者を決定していきました。特に、家族コミュニティ主体の農業の可能性を唱える、愛知学院大学の関根佳恵准教授には助けられ、色々な方をご紹介してもらい、その結果今までにはないようなキャスティング実現することができました。また、農林水産省のサポートも欠かせませんでした。副大臣が挨拶を、事務次官が自らモデレーターを引き受けてくださっただけでなく、提案していただいたワークショップもとても魅力的でした。大学ベンチャー、フードテックスタートアップ、そして農業高校などの登壇によって、アグリテック・コミュニティを醸成させたいという私たちの目標に大きな可能性を感じることができました。

また、スタートアップの成長のきっかけを創るために、イベント期間3日間とも毎夜ウェルカムパーティーやアフターパーティーを開催するなど、ネットワーキングに注力しました。その場でフードテック・プロダクトを試食・体験できるようにして、キーマン同士が1組でも多く会話できるようにしたんです。くわえて、パーティー会場は全て別々の場所をここ日本橋の徒歩圏内で用意し、参加者を飽きさせない疲れさせない構成にしました。おかげさまで、みなさんには大変満足していただけたようです。

〈次回の展望について〉
“枠にとらわれず多分野の人間を集めコワーキングさせたい”

Q. AG/SUMの今後の目標、展望は?
第3回目は7,500名以上に参加いただきましたが、私たちは参加者数などの目標は設定していません。あくまで私たちの目標は、AG/SUMをきっかけに新しいビジネスの種が蒔かれ、芽が出て、大きく育っていくこと。つまり、スタートアップ、企業、投資家、行政、アカデミズムの間の化学反応を、いかに起こせるかが私たちの使命であり成果指標だと思っています。「AG/SUMのおかげで新たなビジネスチャンスをつかみ、大きく成長できた」と言ってくれるスタートアップ、企業を地道に増やしていきたいですね。AG/SUMはシード段階でのマッチングが中心なので表立って成果が発表されるまで5年程度を見込んでおり、2022年以降にオープンにできる話がたくさん出てくると予測していますし、前向きな話が幾つも進んでいると聞いています。

だからこそ、今回一定の成果をあげられたネットワーキングイベントを、もっとスケールアップさせるべく改善していきたいと考えます。具体的には、自由にネットワーキングできるスペースがもう1,2箇所あるとさらなる盛り上がりを生み出せたのかなと感じています。

次回のAG/SUMでは、もう少しバイオテック色を強めてもいいのかなとも感じています。日本のバイオテック戦略のようなものにリンクさせても面白い。そこにアグリテックやSDGsを連携させた形を提案できれば、アグリテック自体の重要性をよりアピールできると思っています。様々な分野の人材を集めてネットワーキングさせていくことが重要ですので、とにかくひとつの枠にとらわれずに登壇者を集め、連携させていく形を実現していきたいですね。

Profile
山田 康昭
日本経済新聞社 編集局 ゼネラルプロデューサー

略歴
1983年日本経済新聞社入社。シカゴ特派員、カイロ支局長を経て、2008-12年に編集局写真部長。2016年からゼネラルプロデューサーとして、FIN/SUMを始めとするSUMシリーズの責任者を務める。