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Topics Volume 6

【主催者インタビュー】BG2C FIN/SUM BB(主催:日本経済新聞・金融庁)
日本経済新聞社/編集局 シニアプロデューサー 柴山重久氏

近年フィンテック領域において、決済、投資、暗号通貨をはじめとする様々な分野で「ブロックチェーン」と呼ばれる分散型台帳技術の応用が進んでいます。日本最大級のフィンテックイベント「FIN/SUM」のスピンオフイベントとして、日本橋、室町三井ホール&カンファレンスで開催された「BG2C FIN/SUM BB」は、ブロックチェーンにフォーカスしたオンライン・現地開催のハイブリッドイベントとして非常に大きな注目を集めました。「BG2C FIN/SUM BB」の主催者である日本経済新聞社の柴山重久シニアプロデューサーにハイブリッド開催に至った背景、ブロックチェーン技術の無限の可能性に着目したプログラム構成、コロナ時代におけるイベント開催の意義や課題などをお聞きしました。

〈開催背景について〉
“中立な議論の土台形成が「マルチステークホルダーガバナンス」の鍵”

日本経済新聞社が「BG2C FIN/SUM BB」開催に至った背景は?「BG2C FIN/SUM BB」とはどのようなイベントか?
日本経済新聞社は、2016年から金融庁と共催する形で「FIN/SUM」という日本最大のフィンテックイベントを毎年開催しています。「FIN/SUM」はフィンテック全般をテーマとして扱い、新たなデジタルイノベーションの模索やスタートアップエコシステムの醸成を目的としてきましたが、その過程で特にブロックチェーン技術に特化したスピンオフイベントを行いたいということで「BG2C(Blockchain Global Governance Conference)」を企画。さらに金融を超えたブロックチェーンの社会実装も加えたFIN/SUM BB (FINSUM Blockcain & Business)を一体化させたイベントとして本イベントが実現したのです。
ブロックチェーンは目下「価値のインターネット」として暗号資産、デジタル通貨、セキュリティートークンなど、分散型金融技術の中核として注目されていますが、技術の進歩に伴う法整備や規制についての議論が十分なされているとはまだ言えません。「BG2C」の目的の1つは、幅広いステークホルダー間の相互理解を促す中で、ステークホルダー同士の協調のあり方を探究し、分散型金融システムにおける「マルチステークホルダーガバナンス」の実現に向けた中立な議論の土台を形成することです。「FIN/SUM」を共同主催してきた金融庁にも、日本の「規制ありき」の社会風土を変えたいという意識の変化があるように見えます。ルールを作って規制しようという方向に持っていくのではなく、「コード」を作って共有していこうというメンタリティに変わってきているように感じます。麻生太郎財務大臣や氷見野良三金融庁長官なども登壇者として参加していることからも、ブロックチェーンをいかに運用していくかという議論の注目度の高さが感じていただけると思います。
当初2020年3月に開催予定だった「BG2C FIN/SUM BB」ですが、新型コロナウイルス禍の影響で延期に延期を重ね、最終的に開催が8月になりました。8月の段階でも徹底した感染症防止対策もしなくてはならない状況でしたので、現地開催では最大限ソーシャルディスタンスを取れるように現地参加者を大幅に制限し、全てのセッションを無料オンライン配信するというオンライン開催も行ない、リアル・オンラインのハイブリッドイベントとして開催しました。

〈プログラム概要〉
“ブロックチェーンを多角的に捉えた幅広いプログラム構成”

初めてのハイブリッド開催となった「BG2C FIN/SUM BB」の手応えは?また、どのようなプログラム構成を意識した?
ハイブリッド開催自体が初めての試みだったこともあり、比較する対象がないので難しいところですが、オンラインでの視聴数がのべ12,000人超となりました。今までの「FIN/SUM」ののべ参加者数に匹敵する数字だったことを考えると今後の指標のひとつになりうると思っています。また、室町三井ホールのキャパシティが300~400人ですから、オンライン展開によって、本来なら会場に入りきれないほどの人数がセッションを視聴したことを意味します。一方、開催会場には多くの人を集めることができないので、メイン会場の座席数は定員の400人を大きく下回る88人に制限し、ソーシャルディスタンスを確保できるように会場レイアウトを整えました。

登壇者は日本語話者と英語話者が混在しているので、オンライン開催では、会場音声をそのまま視聴できる配信、日本語通訳の配信、英語通訳の配信の3チャンネル×2会場という計6チャンネルを用意し、ライブ配信を行いました。言葉の壁を可能な限り取り払うことで、会場に足を運べない世界中からの参加者を呼び込むことに成功したと思います。多くの人に視聴していただける環境を整えることで協賛企業にもオンライン開催の意義に対する理解を得られたのは主催者として非常に嬉しかった部分です。

開催プログラムは、ブロックチェーンの社会実装に伴う国際ルール、ガバナンスのあり方をどのようにしていく必要があるかという議論に主眼を置き、規制、安全性、スケーラビリティ、インターオペラビリティなど、ブロックチェーンをあらゆる角度から見ることができるセッション構成を心がけました。ブロックチェーン=金融、仮想通貨というイメージで捉えられがちですが、ブロックチェーンは情報のトレーサビリティ(追跡可能性)の高さから、KYC(本人確認)や貿易、サプライチェーン、ロジティクスなど多様な領域で活用することができる技術でもあります。幅広いセッションを通じて、金融以外での様々な可能性を紹介することで、ブロックチェーンに特化しながらも幅広い議論の場を用意することができたと感じています。

数あるセッション中でも視聴数が高かったのは、マネックスグループ代表取締役社長CEOの松本大さんも登壇した「花開くか日本のSTO、金商法改正で本格スタート」でした。ちょうど改正金商法が施行されたタイミングでもあり、セキュリティートークン発行による資金調達に関心が高まっていたのでしょう。セッションでは、規制から逆算して考える日本とイノベーションドリブンな米国の違いを指摘しながら、「セーフハーバー」を設定する意義が提案され、非常に満足度の高いセッションを提供できたと自負しています。

〈オンラインイベントの課題〉
“オンラインイベントの鍵は「いかにコミュニケーションを生み出すか」”

「BG2C FIN/SUM」のオンライン開催を経て、見えてきた課題はありますか?
やはりオンラインイベントでどのようにネットワーキングの場を担保するのか、ということでしょうか。今までの「FIN/SUM」ではイベント開催中に毎晩ネットワーキングパーティーを行うなど、スタートアップと大企業のマッチングに注力することができていました。これがオンライン開催となると一気にハードルが高くなる。主催者が参加者同士をマッチングしようとすると「こちらはこういう方です」というような個人情報を取り扱わなくてはいけなくなってしまい、なかなか積極的になれない。この部分に関しては実験を繰り返しながら最善の方法を模索していくしかないと感じています。

そのようなハードルを感じながらも、今回スタートアップと提携・出資先を探している企業間のコミュニケーションを促すためにイベントに並行する形でマッチング・ウェビナーを開催しました。スタートアップ企業側に「我が社の技術・サービスは今このような形で進んでいて、是非こんな企業と一緒に仕事をやりたいんです」とアピールしてもらい、興味がある企業がそのウェビナーに参加するという試みです。スタートアップ、企業両方から評判が良かったこともあり、今後より機能させるためにどのような工夫ができるか考えているところです。

一方、実際の会場でのコミュニケーション構築にも課題はあります。イベントは交流が重要ですが、当日は感染防止対策として「できれば名刺交換もお控えください」とまでアナウンスをする状況でした。そこでavatarinの「newme」というアバターロボットを導入し、顔の見えるモビリティ、コミュニケーションツールとして使用することにしました。セッション後の登壇者が「newme」にログインならぬアバターインして個別の質問を受け付けたり、海外からの参加者のアバターロボットが自由に会場を動き回りながら話をしたり、ジャーナリストが「newme」として会場で取材をしたりと、非常に面白い試みだったと思います。実際、テレビや新聞の取材撮影が入るなど、注目を集めている新しいコミュニケーション方法です。しかし、実際に使ってみると「newme」にも問題点があることもわかってきました。まずプレゼン資料を表示することができないのでZoom等のビデオ会議システムの代替にはならないということ。次にアバターインした状態で講演発表を見ると、スライドの文字が読めないこと。あとwi-fi環境に左右されるなどです。一方で、「本当にその場に人がいるようですね」という声も聞こえてきているので、使い方次第では新しいイベント体験を生み出すことができるのではないかと感じています。

〈今後の展望について〉
“今後もフィンテックは社会実装されていくし、していかなければならない”

今後、「BG2C FIN/SUM BB」が見据えるものは?
2016年から継続的に「FIN/SUM」で最先端のフィンテックを紹介することで見えてきたものがたくさんあります。例えば、日本のフィンテック企業からユニコーンが現れないと言われたりしています。それが単に技術者不足の問題なのか、それとも規制の問題なのか、大企業の新規事業への投資の弱さなのか、様々な要因が考えられますが、日本のフィンテック企業が国内にばかり目を向けがちであることも大きな要因であるように私個人は感じています。自国の枠を超えた事業展開をせずに、国の規制に合わせた形を取ってばかりいるとサービスがガラパゴス化してしまい、どうしてもスケーラビリティのあるサービスは生まれにくくなる。その一方、ブロックチェーンにはそのような現状を打破する可能性があると思いますので、企業が広い視野を持てるように、日本経済新聞のネットワークを活かして海外事例を積極的に紹介し続けていかなくてはならないと感じています。

また、日本においてフィンテックが大きな潮流にならないのは、我々自身がアナログ文化の安心感に慣れているというのもあるでしょう。「やはり新聞は紙でないといけない」というようなサービスの受け手側が抱える問題です。日本は知的水準が決して低くないはずなのに、デジタル技術に対するリテラシーがなぜかそこまで高くない。極端な言い方をすれば、高齢の方を中心に「ガラケーでいいや」という雰囲気が根強く残っている。これはあくまで例え話ですが、携帯の通信料が4割下がれば変わってくるのかもしれません。そうすればスマートフォンの利用者が増え、多くの人がテクノロジーを享受できるようになります。もし何かあったときはGPS機能からなにから使えるわけですから、お年寄りの方こそスマートフォンを持たなきゃダメだという雰囲気になるといいなと思います。その際にeKYCの機能を持ったスマートフォンが普及すればかなり便利ですし、世の中は面白くなる。実は、今回のイベント参加者の方から、「変わらないと言われていた銀行業界でもスマホアプリが主流になったのは時代の流れを感じる」といった声をいただきました。今後もフィンテックは社会実装されていくし、していかなければならないと感じます。

これまでのSUMシリーズではネットワーキングを通じて、新しいビジネスの創出をお手伝いしてきました。コロナ時代、ポストコロナ時代にどのようなイベントを開催できるのか、どのようなオンラインイベントが実現できるのか、いまだ模索中ではありますが、いずれにせよ重要なのは理想的な企業間ネットワーキング環境の構築です。SUMという言葉に込めた「人と人をつなげて化学変化を起こす」という思いを実現させていきたいと思っています。

Profile
柴山重久
日本経済新聞社 編集局 シニアプロデューサー

略歴
1986年日本経済新聞社入社。国際部記者やパリ支局長などを経て、2016年からFIN/SUMを始めとするSUMシリーズのシニアプロデューサーを務める