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Topics Volume 7

【仕掛人インタビュー】
LINK-J 理事兼事務局長 曽山 明彦氏

日本橋が、ライフサイエンス領域のシリコンバレーになる―。 三井不動産とLINK-Jは、東京・日本橋を中心に、場の整備やコミュニティ構築、資金の提供を通じて、ライフサイエンス領域の様々なプレイヤーを繋ぎ、イノベーション創出を促進してきました。その牽引役として、国内外を飛び回るLINK-J事務局長・曽山さんに、LINK-Jの活動内容や、日本橋エリアの可能性についてお話をうかがいました。

〈設立の経緯、重要な使命〉
“日本橋を、ライフサイエンスのハブ、そして日本経済の新旗手にしたい”

LINK-Jの設立背景は? ライフサイエンスの市場性とは?
ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(以下LINK-J)は、日本橋の街づくりを推進する三井不動産と産学の有志によって、2016年春に設立されました。背景にあったのは、それまで隆盛だった製造業・IT業等の成長の鈍化です。今後の日本を牽引する、将来有望な領域としてライフサイエンスに注目が集まり、事実、東京都は、「東京都長期ビジョン(2014)」の中で、日本橋を国際的ライフサイエンスビジネス拠点として定めていました。

ライフサイエンスの世界は実に幅広く、創薬や、医療機器、再生医療、デジタルヘルス、さらに、予防医療や健康長寿までもが対象分野となります。DXやAIとの関係性も深く、求められる専門性は広範かつ高度、まさに次なる産業のフロンティアです。ライフサイエンスが、日本、そして世界の未来を左右する最重要産業のひとつであることは疑いの余地がありません。しかし、それぞれの専門分野は個別に深く最先端まで追究されていても、横のつながりがない、という声が現場では多く聞かれていました。

イノベーション創造には、人や技術を、横断的に繋げる必要があります。つまり、出会いという化学反応を促す触媒役が欠かせません。ライフサイエンス研究者の視野を広げ、彼らの研究シーズに興味を持つ産業や行政などが積極的に支援できる環境を作る、そういう使命を持ってLINK-Jは始動しました。

複数の欧米医療機器メーカーで日本法人社長として働いてきた私は、街全体でライフサイエンス領域のイノベーション創出を目指すLINK-Jの活動趣旨に強く惹かれ、参加しました。

〈ライフサイエンス領域のイノベーションハブとしての具体的な活動・実績〉
“国内外の大学・企業・投資家などとの強固な連携で会員をサポート”

LINK-Jの主な活動とこれまでの実績は?
LINK-Jは、「集まる→つながる→育つ→はばたく」を、活動の根幹にしています。研究機関、産業界、投資家が互いに交流、連携できる場と機会を提供し、オープンイノベーションを促進してシーズを実用化する、この一連の流れの始点から終点までを支援するということです。。

活動を支えるための場の整備は、三井不動産が担ってきました。この5年間で、東京・日本橋エリアだけで10拠点、大阪で1拠点を、オープンしました。場所が整ったことで、人が集まります。2020年末までに、約130の政府機関や大学、製薬会社、スタートアップなどがこれらの拠点等に新たにオフィスを構え、LINK-Jメンバーは海外も含めて約500(法人・個人を含む)になりました。機会の提供という点では、ライフサイエンス領域のプレイヤー向けに、シンポジウムやプレゼンイベントなどを随時開催。その開催数は、年間500回超に達し、参加者数は多い時で1,000名にも及びます。

「つながる」という観点で、重要なイノベーションの源泉である大学との連携も進めてきました。例えば、東北大学とは2019年に6回イベントを共催し、東北大学現地での視察ツアーも実施しました。東北メディカル・メガバンク機構による研究活動や、東北大学病院臨床研究推進センターの中川敦寛先生によるアカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)での取り組みなどを日本橋で紹介しました。大学にとって、ライフサイエンス領域のプレイヤーが集まる東京日本橋でイベントを行うことは製薬大手や医療機器大手とのつながりを築くことができるチャンスであり、自分たちの研究を実用化させる未来への扉です。同時に、都内の研究者や起業家からすれば、国内トップクラスの研究・技術シーズに触れられる貴重な機会となります。今後も、LINK-Jは大学発の良質なシーズを、多くの人や組織と結び付ける活動に力を入れていきたいですね。

「育つ」という観点では、起業直前直後の人たちの技術やビジネスモデルを徹底的に検証・強化して、ビジネス化の支援を行うアクセラレーションプログラムとして、「ZENTECH DOJO NIHONBASHI」があります。このプログラムの成功例の1つが、データサイエンスと医療を融合させたAI問診システムを開発・運営するUbie株式会社(2020年時点で、総額20億円の資金調達)です。Ubie代表の阿部吉倫先生は、起業前にこのプログラムに参加していました。現在はコロナ禍というタイミングもあり、医療機関向けAI問診アプリをクリニックに無償で提供したことで、大きな話題を呼んでいます。

ライフサイエンス領域で先行する海外の大学(カリフォルニア大学サンディエゴ校、オックスフォード大学など)やイノベーションクラスターを推進する中核組織と、強固な連携を保っていることもLINK-Jの強みです。海外のスタートアップや中堅企業にとっては日本市場への参入ハードルは高く、LINK-Jが日本のライフサイエンスプレイヤーとの連携構築を支援しています。逆もまた然りで、海外進出を希望する日本国内の企業やスタートアップのために、海外とのネットワーク構築や資金調達のアドバイスなどのサポートも鋭意行っています。実際、2020年12月には、英国ロンドンで開催されたシンポジウムの時間枠をLINK-Jが確保し、日本のスタートアップ4社が登壇して欧州のビジネスパートナーや投資家を見つけるためのピッチセッションを開催しました。

これらのLINK-Jの活動は、豊富なネットワークや知識を有する国内外の多くの研究者やサポーターの方々に支えられています。理事長には慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授、副理事長には大阪大学の澤芳樹教授が就き、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長や東京理科大学の松本洋一郎学長などを特別委員に迎え、他にも産学の名立たる有識者や経験豊富なサポーターたちが多数就任しています。こういう方々との強固な連携により、専門家による相談会や勉強会の機会を随時設け、イノベーション創出を支えているのです。

〈MICE都市・施設としてのポテンシャルの高さ〉
“新しい出会いが必ずある街、日本橋”

ライフサイエンス企業が日本橋に集まる利点は?
日本には、日本橋を含めて、ライフサイエンス系企業が集積している街、いわばライフサイエンス・イノベーション・ハブ・シティーが複数あります。それぞれの街には独自の顔というか特徴があるのですが、その中でも日本橋は、東京駅から徒歩圏という立地の良さ、江戸時代からの製薬企業や金融機関の集積、研究開発というよりもビジネス機能自体の集積、ホテルやカンファレンスルームの集積、食やエンターテインメントの集積などの特徴を有しています。これらに加えて、LINK-Jが構築してきたライフサイエンス領域を中心とした国内・海外の様々な産官学プレイヤー(他業界を含む)とのネットワークを介して、今まで全く接点の無かった領域・職種の組織や人と出会う機会を持てます。ライフサイエンス系の研究者や企業にとって、「ここに来れば、きっと新たな収穫がある」、そう感じられるのが日本橋なのです。

新しく完成した室町三井ホール&カンファレンスは、天井が高く、モダンでスタイリッシュな設計で、スタートアップやアカデミア、企業主催のカンファレンスやイベントを行うのに快適な環境ですよね。また、徒歩5,10分圏内に、製薬大手やスタートアップ企業のオフィスや、美味しいレストランや賑やかな商業施設が集積しているのも魅力的です。今の働き方に則した、ビジネスとエンタメが融合した移動型で面展開するイベントなども良さそうです。大屋根広場で屋台やフードトラックを出してお祭りのような演出をすれば非日常を味わえて、参加者もゲストも有意義な時間を過ごせるでしょう。新しいビジネス、文化、そして人との出会いがきっとあるはずです。

Profile
曽山 明彦
LINK-J 理事兼事務局長

略歴
東京大学理学部物理学科卒業。 通商産業省(現・経済産業省)入省。 人事院長期在外研究員として米国コロンビア大学大学院卒業(MBA)。 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 ヴァイスプレジデント及び複数の欧米系医療機器企業の日本法人社長を歴任。2016年3月より現職。
東北大学特任教授、厚生労働省医療系ベンチャー振興推進会議構成員、神戸市や札幌市のアドバイザー他も務める。