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Topics Volume 5

【主催者インタビュー】HIMSS & Health 2.0 Japan
メドピア株式会社/HIMSS & Health 2.0 Japan 統括ディレクター 上田 悠理氏

高齢化が進む日本では、ヘルスケアに最新テクノロジーが介入する「ヘルステック」に一層大きな注目が集まっています。ヘルステックの最新トレンドをまとめてキャッチアップできる国内最大規模のヘルステック・カンファレンス「HIMSS & Health 2.0 Japan」。その統括ディレクター上田悠理さんに本カンファレンスの開催背景、プログラム内容、日本橋で開催した理由などをお聞きしました。

〈開催の経緯、モチベーション〉
“アメリカ発、Health 2.0の熱量を日本に持ち込みたかった”

Q. メドピア株式会社が「HIMSS & Health 2.0 Japan」の開催に至った背景は?
ヘルステックという言葉自体がまだ存在していなかった2007年から、アメリカ西海岸では、ヘルスケアにテクノロジーを導入しようと試みるエンジニアたちによって、画期的なプロダクトやアイデアを発表する「Health 2.0」というテックイベントが開催されていました。弊社代表の石見は2010年にHealth 2.0に初めて参加した際に、日本では経験したことがないような会場の熱量に圧倒されたと言っています。

その熱量の中心に「ライブデモ」というプロダクトの実演があります。Health 2.0の名物プログラムである、この熱量がすごいんです。発表者は4分間で自社のプロダクトをステージ上でデモンストレーションするのですが、ヘルステック企業にとって生み出した技術は我が子のようなもの。ですから、それを公に見せられる、自慢できる、というライブデモへの情熱は尋常ならざるものがあります。デモには、スライドやムービーは使うことが許されませんが、かえって熱のこもったライブ感のあるデモンストレーションに観客が惹きこまれる様でした。単なるピッチにはないリアルさと、発表者と観客の相互作用が生み出す熱量を、なんとしても日本にも持ち込みたかった、というのがそもそものきっかけです。

Health 2.0に参加した2010年のうちに、つまり感化された勢いそのままに、一度小規模なイベントを国内で開催しました。その後、メドピア株式会社としての事業を伸ばす数年間を経て、2015年から本格的に「Health 2.0 Asia - Japan」と題したカンファレンスをスタートします。2015年以降、アメリカのHealth 2.0本部とも協力しつつ、毎年1回開催し続けています。2019年は「HIMSS & Health 2.0 Japan」とイベント名を改め、医療情報管理システム協会「HIMSS」、日本経済新聞社と一緒に開催するという形を取りました。

私たちのモチベーションの根源には、「ヘルステックのコミュニティが日本にも必要だ」というピュアな思いがあります。テクノロジーで可能になることが増える一方で、医療の現場にはまだまだ課題が山積みです。この断絶をなくすための橋渡しをしたい。例えば、ヘルステックの最新トレンドを国内に紹介し、近い将来どのような技術が必要とされるのか、そして今使えるテクノロジーにはどのようなものがあるのかなど、ヘルステックに関する様々な情報を広く共有したいと思っています。

〈日本橋を選んだ理由について〉
“日本橋=ライフサイエンスの街というブランディングが整いつつある”

Q. 「HIMSS & Health 2.0 Japan」を開催するにあたって日本橋三井ホール、室町三井ホール&カンファレンスという場所を選んだ理由は?
かつて開催した虎ノ門や渋谷から日本橋に移った理由のひとつに会場規模の問題があります。参加者が1,000人を越えるカンファレンスを開催でき、かつ、2つのホールを使える場所を都内で探すとなると会場は限られるんです。その点で日本橋三井ホールと室町三井ホール&カンファレンスは非常に都合が良かった。

また、近年、日本橋はライフサイエンスの街というエリアブランディングが整ってきているという印象があり、かねてよりヘルステックのイベントをする場所として相応しいと感じていたというのも一因です。

さらに、スポンサーのセッションには、参加者の高い流動性を持たせるオープンな会場作りが必要でしたが、室町三井ホール&カンファレンスを下見した際に、ホワイエとホールを繋いで使おうと思いつきました。ホワイエでコーヒーや昼食をとることができつつ、ブースやホールも見て回れる、参加者・スポンサー・ブース出展者が喜ぶ会場レイアウトがイメージできました。イベント当日は、参加者の皆様には、自然に交流が生まれるアットホームな雰囲気を楽しんでもらえたようで、当初の思惑通りうまく機能したと思っています。

一方、日本橋三井ホールの方はメインホールに相応しい重厚感のある造りをしており、2会場の雰囲気に差を持たせることができたのも良かったですね。メインホールはインプットの場としての機能を持たせたかったので、しっかり集中してセッションを聞くことができる雰囲気を大事にしたかった。日本橋三井ホールの洗練された雰囲気がセッションを彩る効果をもたらしていたと思います。

〈イベントプログラムについて〉
“2日間で世界のヘルステックの「今」を網羅する”

Q. 「HIMSS & Health 2.0 Japan」のプログラムで工夫した点は?
例えば今、「医療×AI」のテーマだけで丸1日のプログラムを埋めつくすことは可能ですが、特定のテーマに絞ると出会える人も情報も限定され、「入り口」としてのカンファレンスの意義が薄くなってしまいます。いかに2日間で取りこぼしなくヘルステックの今を網羅できるプログラムをつくれるか、が私たちにとって重要です。そのため、ヘルステックに少しでも興味のある人が、ありとあらゆる情報・きっかけを得ることができ、多くの人や会社と繋がることができるようなプログラム作りを目指しました。具体的には、2019年は、病院経営目線で医療インフラのアップデートを目指すNPOのHIMSSと、技術イノベーションを核にしたコミュニティのHealth2.0という、医療革新に対する2つのアプローチを同時に扱い、網羅性をさらに高めることに注力しました。

また、興味を持った分野に関する理解を深めていただくための工夫として、ある分野の有識者によるキーノートに続き、関連性のあるデモのセッションやパネルディスカッションを入れるという組み立て方をしています。例えば、「医療データを運用した健康リスク管理」というセッション後に、「未病・予防」に関するライブデモを繋げるといった具合です。キーノートで「今後の方向性」を示し、続くライブデモで「現時点で可能な技術とその展望」を見せることで、より立体的なインプットを構築しようという狙いです。それにはHealth 2.0の見せ場のひとつでもある、説得力のある質の高いライブデモが不可欠ですので、事前トレーニングは一切手を抜かず徹底的に行いました。

加えて、カンファレンスには人と人が繋げるための仕掛けや心配りも欠かせません。例えば、レセプション・パーティーではあまりかしこまりすぎない雰囲気づくりを心がけています。今年はさらに一歩踏み込んで、CXOを対象とした招待制のディスカッション・セッションを開催しました。記者なし、インタビューなしのクローズドなディスカッションにすることで、ざっくばらんに医療の課題、病院経営の課題を共有しよう、という試みです。ゲストの皆様からも、得るものが大きかったと好評を博しました。また、先述のオープンな会場づくりを最大限に生かすべく、ランチ時などにネットワーキングタイムを長めに確保し、自発的な交流が生まれる工夫を凝らしました。

〈次回の展望について〉
“日本を代表するヘルステックのハブを作りたい”

Q. 「HIMSS & Health 2.0 Japan」の今後の目標、展望は?
日本を代表するヘルステックのハブを作りたいと常々思っています。そのためには、これだけの情報が得られた、何かが始まった、という成功事例を積み重ねていかなければなりません。また継続的に参加したくなるような情報価値が重要です。幸いなことに、リピーター率も高く、1,000人規模のイベントでありながら会場には顔見知りがたくさんいるような状況が生まれつつありますし、カンファレンスがきっかけで行われた出資、協業の話も増えてきています。

今後さらにイベントのクオリティを高めるために、日本国内の情報に偏ることなく、世界と連携を取りながら最先端のトレンドを伝える姿勢は大切にしたいと考えています。日進月歩のヘルステック業界ですから、グローバルなトレンドを語るに最適なスピーカーに登壇してもらうなど、毎年アップデートする必要は必ず出てきます。自分たちが今までやってきたことを正しく評価し、より良い情報を届けられるよう手を抜かないこと。それが「HIMSS & Health 2.0 Japan」の価値に直結すると信じています。

Profile
上田 悠理
訪問診療医 形成外科医 メドピア HIMSS & Health 2.0 Japan 統括ディレクター(メドピア株式会社)

略歴
早稲田大学法学部を卒業後、岡山大学医学部に編入、医師免許を取得。訪問診療医、形成外科医の傍ら、2017年からHIMSS & Health 2.0 Japan 統括ディレクターを務める。